倉渕ダム建設を考える

 12/3 小寺群馬県知事 建設凍結を発表 


 
1993.パラグライダ− 浅間隠山よりのフライト画像から)
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倉渕ダムは必要か  (高崎の水を考える会) から

● 倉渕ダムってどんなダム

倉渕ダムは、島川沿岸の倉渕村、榛名町、高崎市の洪水被害を防ぐための治水対策と、高崎市の上水道用水の確保、烏川の既得用水(農業用水など)の安定化を主な目的とした多目的ダムとして、群馬県が烏川上流の倉渕村に建設をしています。平成13年7月現在で、付替道路工事(ダムによって水没する道路の代わりとなる道路)がほぼ完成し、本体工事の着工が間近にせまっています。
 建設費は、当初275億円の予算でしたが、すでに130億円近くまで使われていて、完成までには当初予算の約二倍の550億円程度必要といわれています。ダム建設費は、国庫補助事業としての多目的ダムということで、全体の87.9%を国と県が半分ずつ負担し、残りの12.1%を高崎市が水利権を得るために負担する計画です。


● ダムと環境

 群馬県は、「倉渕ダム周辺は良好な自然環境に恵まれた地域」といっています。県の調査によっても、猛禽類の営巣が確認されていました(1991年)。しかし、翌年以降の営巣は認められていません。現地に人が頻繁に出入りして調査したり、工事をしたりすれば猛禽類は離れていってしまいます。その他、豊かな動植物が確認されています。
 ダムは川という自然の水循環を断ち切り、下流の川はもはやそれまでの自然の川ではなくなってしまいます。身近なところでは、鬼石町の神流川に造られた下久保ダムがありますが、ダムが造られたことでダム直下の国指定名勝、三波石峡が見る影もなくなるほどに荒廃してしまっています。「ダムが造られて良くなった所はどこにもない」と研究者も断言するように、ダムが観光資源となって地域を活性化させた例は、全国にほとんどありません。 
 近年、川や洪水対策、永源確保についての考え方が、「緑のダム」といわれる森林を涵葦し自然を守りながら川と共存するという方向に世界的に進んでいます。
 渇水時に空になったダムがテレビなどに映されると、ダム建設に必要性があるようにみえるかもしれません。しかし実際には渇水時のダムの役割はそれほど大きいものではありません。水を作っているのは森林であり、ダムが水を作るわけではありません。保水能力もダムは森林の20〜30%に過ぎないといわれています。今年の夏のように記録的に雨の少ない時でも、ダムのない烏川では脈々と水が流れています。烏川の流域には、高崎市を含め25の水利権所有者がいて、渇水時や洪水時にも水を上手にやりくりしながら利用してきた長い実績があります。
 日本の河川は急峻で、降った雨が短時間で海に流れてしまうのでダムが必要であると、国土交通省などは言っています。東京の水がめとして存在する利根川水系のダム(人ロの一極集中による弊害の表れのひとつ)の場合、このことはまったく否定はできませんがぃ島川についてはこれは当てはまらないのです。烏川の場合、倉渕ダム建設予定地より上流地域では降雪量も少なく、ダムができたとしても雪解け水の貯水は見込めない。むしろ、ダム建設によって、水没地域の樹木は伐採され、ダム周辺の整備開発が進み、このことが地方にまで広がっているヒートアイランド現象を引き起こす気象変化を増幅させ、また極端な干ばつや洪水を引き起こすことにもつながっていくと思われます。
 高崎市は水源の安定化をめざして、島川上流の倉渕村川浦高芝の倉渕村有林145.75ヘクタ−ルに「水源涵養林造成事業」を奥施しています。この事業は、1997年(昭和46)から2041年(平成53)まで、高崎市が費用を出して造林、管理をしているものです。2000年度までに、1億4,300万円を投じています。水源涵養の点からは極めて先進的な対策を取っているのです。
 このような涵養林は全国各地にありますが、このことで水利権は発生しません。水利権は河川法によって、ダム、取水堰などの施設を造ることによって発生する権利、と決められているのです。また、上水道は厚生労働省、河川は国土交通省、工業用は経済産業省、農業用は農林水産省という縦割り行政によって総合的な水資源対策がとられていない現状です。自然を守り水資源を確保するために、水源涵養と水利権を結びつけることや農業用水と生活用水の柔軟な運用等総合的な施策が急務です。
 倉渕ダムの建設については、ほとんどの住民が建設場所もその目的も知らないまま工事が進められているのが実情です。
 現在、群馬県では、本体工事に先立ち計画のチェックをしているそうです。低成長時代を迎え財政構造改革を迫られている今日、公共事業の見直し機運に後押しされた見直しではなく、将来を見据え地球規模の視野でその事業の必要性を検討していかねばなりません。私たちのあとの世代に、安心できる環境を残していくのが、今を生きる私たちの努めです。この倉渕ダムについても、最も望ましいのはどういうかたちなのか、住民の声も聞きながら、中止も視野に入れた検討作業が求められています。
 □■リンク
 ● 倉渕ダム建設事務所 (群馬県)
 ● ダムを考える 1(脱ダム宣言 長野県)
 ● ダムを考える 2(ダム事業の抜本的見直しを)
 ● 思川開発事業を考える流域の会HP(栃木県)
 ● イヌワシの棲む碓氷の自然環境を考えるホームページ(群馬県)
 ● 高崎の水を考える会(倉渕ダム)
 ○● こんな本はいかが
 ■ 『公共事業どう変えるか』 保母武彦著 岩波書店
 ■ 『内発的発展論と日本の農山村』 保母武彦著 岩波書店
 ■ 『自立をめざす村 一人ひとりが輝く暮らしへの提案(長野県栄村)』 高橋彦芳・岡田知弘著
 ■ 『小さくても元気な自治体』 保母武彦監修 自治体研究社 
 ■ 『だれが山を守るのか』 リブリオ出版
 ■ 『森林はなぜ必要か』 只木良也著 小峰書店
 ■ 『森林100の不思議』 東京書籍
 ■ 『長野県知事「脱ダム」宣言を読む』 銀河書房新社
 ■ 『長野の「脱ダム」、なぜ?』 保野野初子著 築地書館