クロネコヤマトの実像


2005年7月10日
クロネコヤマトの集配センターにて、事件は起きた。
クロネコヤマトは、ご存知の通り、宅配業を主とする運送会社である。また、「宅急便」として個人宅配の市場を切り開いたという努力は、プロジェクトXにも取り上げられたように、大きな市場実績として他に例を見ない成果を作り出した。
そのクロネコヤマトは現在、「関東圏内であれば、当日中に配送する」というサービスを展開している。


接客の空洞化
2005年7月10日、事件が起きた。これは、私事ではあるが、私の実家の母が、あるお祝いに「赤飯」を送ってくれようとしたことに始まる。
当日の朝、7時30分、群馬県前橋市の野中町にある集配センターに、荷物を預けに行った。もちろん、早すぎるわけではない。もっと早い時間にセンターに行ったのだが、業務が開始するまで車中で待っていたのだ。業務が開始されたことを知って、母は窓口に入った。


受付での信じられない対応
窓口に入ると、受付に女性がいる。その方に母は「荷物があるのですが、預かってください」と母は言った。それに対し、その女性は、『何個口ですか?』と質問をする。それに対し母は、「一個です」と伝えた。ここまでは、普通のやり取りである。
しかし、その受付は、とんでもないことを言い始めた。『お釣りがないんで預かれません』。
実際の荷物を見ていないのに、である。では何故、受付業務を開始したのか?10個であれば、受け付けるのであろうか?
呆然とするまま、母はその場に立ちすくんだ。


受付業務の業務放棄
しばらくすると、宅配業務を実際に集荷担当しているドライバーが事務所に入ってきた。すると先の受付の女性は、そのドライバーに対し、『お客さんが来ているからやっといて』と言い残し、自分は何か他の事を始めてしまった。
ドライバーは丁寧に応対してくれ、当日中に都内に配送してくれるよう、手配を整えてくれた。
ところが、実際に、計量、応対するはずの受付は、全くもう無関心の状態で、こちらに気を配るどころか、挨拶ももう行なわなかった。
ドライバーに、受付の女性の名を尋ねると『松村さん』ということが、ようやくわかった。


コスト削減の影響?
野中の集配センターは、群馬県中央部の主要な集配センターとして位置づけられている。ところが実は、このセンターは数年前から、正社員がいない。
このことを確認できたのは、さらに2年前、同様の事件が起きていた事で判ったことである。


2年前に起きた事件
同じ集配センターで起きた事実である。受付に入ると、数名の女性が事務所の奥で談笑し、全く受け付けてくれない、ということがあった。その中の誰も受付業務をしてくれないのだ。
その時も、ドライバーが受付を担当した。
これに対し、私たちはサービスセンターに連絡をし、回答を待った。もらった回答は、『人員削減の影響で、正社員をセンターに配置しなくなったのです。マネージャーは、週に数度センターに訪問するだけで、あとはパートの社員が行なっているのです。教育が行き届かずすみません。改善をします』
というものであった。
つまり、正社員がいなくなり、質が落ちたというのである。そして、その改善を一応約束してくれた。


個人責任主義による、歪み
クロネコヤマトは、CMでも放送している通り、「あなたのドライバー」という、うたい文句で、集配ドライバー個人をエリアに結びつけ、一個の荷物から、個人宅まで集荷に伺うという姿勢を打ち出している。また、配送時もし不在時の折には、ドライバーの個々の携帯電話に連絡をして配送してくれるというサービスを展開している。
ここで問題になるのは、配送ドライバーへの過度の負担である。
別の折、私が、配送してくれたドライバーに対し、集荷時の連絡先は?とたずねると、あまり積極的ではない様子で、彼は自分の連絡先を記した用紙を手渡した。特に彼にとってに限ったことではないと、これは思う。
本来、担わなければならない、「配送」という仕事に加え、あくまでも個人の責任として「営業」までをも行なわなければならないのである。
このことは、ドライバー各個人にとってかなりの重圧となる。


山崎篤社長の経営方針か
それに比較し、集配センターでの業務の怠慢、コミュニケーションの充実に反する状況が見受けられる。
クロネコヤマトの企業姿勢の8.には、【 コミュニケーションの充実と共存共栄 】が謳われている
(http://www.kuronekoyamato.co.jp/kaisya/rinen.html 参照)。
まさに、2年前の事件、そして、今回の事件については、まったく尊重されていない内容である。
ドライバーは、日々、重圧に耐えながらサービスを提供するように心がけていると思う。
しかし、集配センターの現場では、それが全く活かされていないのである。
『すべてドライバー任せ』という風潮が蔓延しているのではないか?
これは、先に述べたように、コスト削減の『言い訳』として、当時の責任者が述べた事実に回帰する。


過度な責任と、責任回避の風潮
現在のままでゆくと、ドライバーの肉体的、精神的な重圧による、『本当の事故』が起きても全く不思議ではない。メンタル的なサポートまで手が回っていないように見受けられる。
そして集配センターでの『業務拒否』。クロネコヤマトのいう、「経営理念」「企業姿勢」「社員行動指針」が、本当に浸透しているのだろうか?
1931年に制定されたヤマト運輸の「社訓」という原点は、忘れ去られてゆこうとしているのではないか?


原点への回帰を
今回の事件は、単なる予兆に過ぎない。クロネコヤマトが、『原点』への回帰を行なわない限り、本当の『事故』が発生してしまう可能性が、多岐に亘り存在する。
いつまでも働ける会社であるのか、そして、本当のサービスとは何なのか、もう一度、元ヤマト運輸会長の小倉昌男氏が思った原点に立ち戻り、パート社員も含め、組織的に対応を行なう必要があると切に思う。


2005年7月10日
文責:桐生 岳