『高濃度乳房』とは?

乳腺の発達が良く、乳腺実質が脂肪よりも多く(大体の目安で50%以上)、
マンモグラフィ検査で乳腺濃度が濃く写るタイプのことです。
しこりや腫瘍があっても 乳腺の濃い部分に隠されてしまい、所見があっても分かりにくいといわれています。高濃度であることは けっして病気ではありません。

マンモグラフィ検査の診断をするときに、読影医は乳房内の乳腺実質の写り方によって、乳腺の評価をします。
一般に、乳房マンモグラフィは次の4つに分類されます。

①極めて高濃度乳房 ②不均一高濃度乳房 ③乳腺散在乳房 ④脂肪性乳房

このうち、①と②の乳腺実質の濃い人たちの乳房を高濃度乳房としますが、これは決して病気なのではなく、乳腺の発達や体質による写り方の違いの分類です。
一般に高濃度乳房の持ち主は乳房の発達した閉経前の30~40歳台以下、出産・授乳歴のない方、女性ホルモン剤の補充療法を長期受けている方などに多く、逆に年齢が高くなるほど、授乳歴が多いほど、また、更年期を過ぎると次第に乳腺実質は委縮していくため、乳腺濃度は低くなっていきます。そのため、閉経期を過ぎると、乳腺散在あるいは脂肪性の乳房に変わっていきます。
気を付けていただきたいことは、40歳以下は皆が高濃度乳房というわけではなく、20歳台でも乳腺散在や脂肪性乳房の方もいます。乳房はひとそれぞれで個人差が多いものなのです。

高濃度乳房の方のデメリットとして、腫瘤が乳腺濃度に隠されて見づらくなり、乳癌の発見率が低下することです。さらに、乳腺の発達がいいことで、乳癌のリスクが高まるともいわれています。
従って、検診対象者のうち、40歳台の特に高濃度乳房の人たちに対するマンモグラフィの判定の難しさが以前から問題にされており、そこが、マンモグラフィ検査の弱い所と言えます。
この対策としては、マンモグラフィに加えて エコー検査を併用することが有効と考えられています。
少なくとも腫瘤の発見については、エコー検査を加えることで乳がんなどの異常が発見しやすくなると思われます。 しかし、エコー検査のデメリットとして、施行者の技量による差が大きく、判断が難しいことがあり、偽陽性も多くなります。また、乳癌の重要な所見の一つである微細石灰化はエコーで発見することは困難であり、高濃度乳房といえども石灰化の発見と診断についてはマンモグラフィのほうが優っています。

いずれにしても、乳腺の発達した高濃度乳房の方は脂肪性乳房の方に比べて検査の感度が低く、その結果として、いわゆる 『見逃し症例』が多くなることになります。 (いくら目を凝らしても所見自体が隠されて見えないので正確には『見逃し』とはいえないかも知れません)

マンモグラフィ検診において高濃度乳房の評価をされた人たちに対して、『異常なし』の判定結果とともにこの高濃度乳房の持ち主であることを受診者自身に通知した方が良いか否かについて、現時点での見解について、最近 関連学会から新たな提言がなされたので、以下に お示しします。


以下が学会サイトから転記した内容です。

対策型乳がん検診における「高濃度乳房」問題の対応に関する提言

平成29年3月21日
日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構

乳房濃度が高い受診者ではマンモグラフィ検診の感度が低く、乳がんの罹患リスクが高いことが示されている。米国では近年マンモグラフィ検診受診者に対して乳房の構成を通知する活動が広がり、日本でも特に対策型検診において乳房の構成を通知するか否かが問題となっている。この課題に関して、日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本乳がん検診精度管理中央機構が共同でワーキンググループを立ち上げ、その方向性を検討した。

任意型乳がん検診としてマンモグラフィを行っている米国では乳房の構成の通知が行われており、50州のうち27州で通知が法制化されている。一方、対策型乳がん検診を主として行っている欧州では乳房の構成の通知を義務付けている国はない。日本では公共政策として対策型乳がん検診を行っており、その受診者の約40%が高濃度乳房に分類されると推定される。高濃度乳房は乳房の性状であり、所見や疾病ではないため、高濃度乳房であることを理由に要精密検査と判定してはならず、原則としてその後の対応として保険診療による追加検査の施行は認められない。

乳がん検診における科学的根拠のある検診方法は、現時点でマンモグラフィ以外にない(「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン2013年度版」参照)。高濃度乳房に対する検診方法として期待される乳房超音波検査に関しては、がん対策のための戦略研究「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験」(J-START)が実施され、感度及びがん発見率が上昇する結果が得られているが、死亡率減少効果は明らかではなく、特異度の低下などの不利益を最小化するための対策等も今後の課題である。また、現時点では乳房超音波検査による乳がん検診を全国的に行う実施体制は人的資源確保を含め十分整っていない。従って、現時点では対策型検診において乳房超音波検査は高濃度乳房に対する検診方法として適切な検査方法とは言えない。

一方で、乳房の構成は受診者個人の情報であり、受診者の知る権利は尊重されるべきである。しかし市区町村が受診者に乳房の構成を通知する際は単に受診者に対して乳房濃度を伝えるだけでは、十分とは言えない。乳がん検診の限界や高濃度乳房であることの意味、自覚症状が生じた場合の対応等の情報提供に関する体制整備が今後の課題である。

以上を勘案して、以下のとおり提言する

【提言】

平成29年 4月16日 
NPO法人日本乳がん検診精度管理中央機構 
施設・画像評価委員会委員長 横江隆夫

乳房の構成の分類に関するお知らせ

施設画像評価委員会では乳房の構成の分類について「マンモグラフィガイドライン(医学書院)」および「マンモグラフィによる乳がん検診の手引き-精度管理マニュアル-(日本医事新報社)」に準拠して評価・判定を実施しております。
乳房の構成の分類を正しく理解されていない施設が多く見受けられ、乳房の構成が不適切で再提出が多くなっています。
施設画像評価には下記の分類内容を参考にご理解の上、臨床画像を提出いただきますよ うお願いいたします。

乳房の構成の分類について

乳房内の乳腺実質の量と分布(脂肪の混在する程度)に関する評価で、病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性の程度を示す※1ものである。 
以下のように分類する。

  1. 脂肪性:乳房はほぼ完全に脂肪に置き換えられている。病変が撮影範囲に入っていれば、検出は容易である。
  2. 乳腺散在:脂肪に置き換えられた乳房内に乳腺が散在している。病変の検出は容易で ある。乳腺内※2の脂肪が 70〜90%程度を目安とする。
  3. 不均一高濃度:乳腺実質内に脂肪が混在※3し、不均一な濃度を呈する。病変が正常乳 腺に隠される危険性がある。乳腺内の脂肪が 40〜50%程度を目安とする。
  4. 極めて高濃度:乳腺実質内に脂肪の混在はほとんどなく※4、病変検 出率は低い。乳腺内の脂肪が 10〜20%程度を目安とする。 
    もし、豊胸術がなされているならば、報告書に追記する。
  5. 左右差がある場合には、より高濃度の判定とする。

高濃度乳房(いわゆるdense breast)は、不均一高濃度と極めて高濃度を併せたものと定義する。

 2017年4月の時点で最新のマンモグラフフィガイドライン第3版増補版 では脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、高濃度の4分類となっているが、次回の改訂の際には上記用語を使用の予定である。

(要点)

※1 乳房の構成を分類する目的は、病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性の程度を示すものである。 
※2 乳房内ではなく、乳腺内における脂肪の割合である 
※3 脂肪性と乳腺散在は乳房内に脂肪が多く、乳腺が少ないことに重点が置かれている。
乳腺散在における乳腺実質内の脂肪についての言及はないが、脂肪に置き換えられた乳房
内に乳腺が散在しており、「病変の検出が容易」という表現であることから、乳腺内には多くの脂肪が含まれていると解釈できる。
 
  → 脂肪の豊富な乳房内に厚い・脂肪を混在しない乳腺の場合には、乳腺実質の評価で分類することとなる。 
※4 不均一高濃度と高濃度については、乳房内の脂肪量について言及していない。乳腺実質内にある脂肪量が問題である。つまり、乳腺実質周囲の脂肪量は考慮の対象にならない。
→ 見かけ高濃度は、撮影手技により小さな嚢胞も描出できる、あるいは、微小石灰化も検出できるような場合には高濃度ではなく、不均一高濃度に分類してよい。

ファイルイメージ

乳房の構成の分類に関するお知らせ.pdf(99KB)




 →日本乳がん検診精度管理中央機構のサイトでリンク

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