乳がん検診について

日本の乳がん検診の経緯

 欧米では乳がん検診は1940年代からはじまり、すでに70年代から触診にマンモグラフィを加えて多くの研究が行われ、その有効性が確かめられ定着してきました。一方、わが国でも欧米の状況に習うように1965年頃から一部の地域で乳がん集団検診が行われるようになりました。日本では1975年に日本対がん協会が中心となり視触診による検診が始められました。
 1980年代には全国的にかなり普及し、国の政策としては、昭和62年(1987年)の老人保健法により、初めて視触診による乳がん検診が加えられました。その後、厚生省研究班による研究により、平成3年に乳がん検診における画像診断の導入に関する調査の必要性が指摘され、一部地域でX線撮影導入のモデル事業が実施され検討が行われてきました。
そして、平成12年3月に、いわゆる老健第65号の通知によって、50歳以上へのマンモグラフィ導入が決定されました。さらにその後、40歳代へのマンモグラフィ導入について検討が行われた結果、50歳代については視触診とマンモグラフィの併用検診が死亡率減少効果があるとする十分な根拠があるとされ、40歳代についても死亡率減少効果があるとする相応の根拠があると報告されました。
 平成16年4月、厚生労働省は<乳がん検診及び子宮がん検診の見直しについて>公表しました。その内容は、乳がん検診はマンモグラフィによる検診を原則とすることと、当分の間、視触診も併用していくこと、対象年齢は40歳以上のすべての年代とされ、検診間隔を2年に1度とすることが決定されました。
 30歳代の乳がん検診についてはマンモグラフィはあまり有効でないことから、今後も視触診単独および超音波による検診を引き続き調査・研究することとされ当分の間30歳代の乳がん検診は行わないことになり、事実上廃止された形になりました。また、子宮がんについては頚がんのみとし、対象が20歳以上に引き下げられることも決定されました。
そして、現在では40歳以上の方については、マンモグラフィと視触診による乳がん検診が広く定着してきています。職域における検診や個別検診においても、厚労省の指針に従ってマンモグラフィによる検診はもはや当たり前に受けるべきという時代になっています。
検診間隔については当初2年に1度でしたが、隔年にこだわらず、検診の間に自己発見される乳がん(中間期乳癌)も少なくないことから毎年実施する市町村も増えてきています。
 人間ドックや職域検診では比較的若い年齢層の受診者が多いため、30歳代からもマンモグラフィによる検診が積極的に行われていますが、一方でエコーによる検診も多く行われているのが現状のようです。しかし、エコー単独による乳がん検診は正式には認められていないというのが、今のところ正しい見解と思われます。


 
マンモグラフィとエコーの併用による検診について
  
 平成28年度に大規模な研究における報告について、東北大学 大内憲明教授らの学会発表がなされています。
 厚生労働省の方針に従って、今後も乳がん検診は40歳以上においては、マンモグラフィを主体に視触診も併用することになっていますが、平成27年に厚労省は視触診を行わないマンモグラフィ単独検診も認めています。そして今後も超音波をとり入れるかどうかについて研究・検討が行われています。また、40歳代においてマンモグラフィで判定できない症例が少なくないことから、マンモグラフィにエコーを併用する検診方法の有効性を確かめるために国のがん対策のための戦略研究として行われました。これは、『乳がん検診における超音波検査の有効性を検証するための比較試験』(J-START)というもので、東北大学大内憲明教授らが中心となって全国の23都道府県がこの研究に参加して総数約7万6000人あまりに及ぶ方々を対象に実施されました。群馬県も群馬県健康づくり財団と群馬大学乳腺内分泌外科の協力で13市町村で実施しました。既に臨床研究は終了し、この方法による検診結果の解析が行われました。平成28年の乳癌検診学会で、世界的にも意義のある重要な研究の成果が発表されました。
それによると従来のマンモグラフィ検診にエコーを併用した場合、マンモグラフィ単独の場合よりも、乳がん発見率が約1.5倍も高くなることが実証されました。
しかし、同時に要精査率も高くなり、偽陽性となる人の割合も多くなりました。そのために本来不必要な検査を受けたり、結果が出るまで不安な日々を過ごさねばならないことにもなります。今後は陽性反応的中率を上げること、さらに精度を高めることが必要になっています。


群馬県の乳がん検診のあらまし

 
群馬県における住民に対する乳がん検診は主に郡部の市町村で行われている集団検診といくつかの市部で行われている個別検診(前橋市、高崎市、桐生市、太田市など)とがあります。地域によっては併用実施されている所もあります。
 集団検診についていえば、昭和55年(1980年)群馬県対がん協会(現在の群馬県健康づくり財団)と群馬大学第2外科の協力により開始され、30歳以上の女性に対し視触診による検診が毎年行われてきました。当初から乳腺を専門とする医師を中心に地域の病院の協力で出張方式による住民検診が基本でした。毎年4万人以上の受診者に検診を行い、平成12年までの22年間に500例近い乳がんの発見の実績がありました。当時の視触診による検診発見乳癌は検診でない自己発見乳癌と比べ腫瘍径が小さく、より早期であるというデータもあります。
 平成13年度からマンモグラフィを導入開始し、平成16年度は64市町村の5万人近い受診者のうち45市町村の約8000人がマンモグラフィ検診を受診しています。導入後4年間のマンモグラフィ併用検診の乳がん発見率は、約0.3%であり
視触診単独検診での発見率0.07%に比べ明らかに高くなっていました。平成17年度から一応ほとんどの自治体でマンモグラフィ併用検診が実施されていて、すでに4万人以上の方が受けられました。平成22年度からは乳がん検診受診者の全員がマンモグラフィを受けるようになっていますが、一般の方々の認識はまだまだ低く、乳がん検診の受診率は当初は20%程度でしたが、ここ数年は50%を超えるほどにまで受診率は上がってきています。
 欧米の乳がん検診受診率が70から80%以上であることを考えると、日本は検診の受診率が低く、実施する側だけでなく、一般住民の方のがん検診やマンモグラフィに対する認識が低いといえるでしょう。確かに僅かながらも被曝の問題(実際にはリスクよりもベネフィットの方が大きい)や検診事業全体からみた費用対効果比の問題を主張する一部の専門家もいますが、患者さん個人にとっては進行がんよりは少しでも早くがんが見つかるほうが良いと考えます。検診は自分自身の健康のために自ら受けるのであり、早期発見のためのひとつの機会に過ぎません。

乳がん検診の精度管理について
 
群馬県においても平成17年度からは、ほぼ全ての自治体でマンモグラフィ併用検診が導入されていますが、職域検診や会社の検診ではまだ触診のみ、あるいは年齢や人数を制限するなど実施方法も検診施設によって差があり、まだ十分とはいえません。
さらにマンモグラフィやエコーの診断力の問題があります。乳腺専門医だけではない検診読影医による診断能力の差があるようです。
現在、日本ではマンモグラフィを読影できる医師の認定制度があります。
日本乳がん検診精度管理中央機構(精中医機構)という組織が中心となって、乳腺を専門とする医師だけでなく、ほかの領域の医師、たとえば内科、産婦人科、外科、放射線科を問わず開業医を含めて平等に乳ガンに係る知識とマンモグラフィの読影試験に合格した医師に検診マンモグラフィの読影資格〈読影認定医〉が与えられます。検診の読影を行う医師には、少なくともB評価、できればA評価の医師が求められています。そして、さらに精中医機構では、マンモグラフィを撮影する技師の研修や認定資格制度もありますし、マンモグラフ撮影機器や技術的な評価である施設画像認定も行っています。これらの認定されたスタッフや機器を備えた検診施設や病院、クリニックで検査を受けることが推奨されます。医療者側には精度の高い検診を行うことだけでなく、一般の方々への自己検診の指導や検診方法の正しい知識の啓蒙などが求められています。

乳がんの診断はどこで受けるべきか?

 乳がん検診の判定では、まず1次判定の医師と2次判定の医師によるダブルチェックが行われます。(多くの場合2次判定の医師が上位資格)。マンモグラフィの判定はガイドラインに従って5段階評価され、カテゴリー1から5までの数字が付きます。エコーの判定もほぼ同様です。そして何らかの病変が疑われる場合はカテゴリー3以上とされて要精査となります。要精査、あるいは再検査の指示が出されて精密検査あるいは2次検査へと進みます。ここで重要なことは、要精査とはあくまでもマンモグラフィの上での判断なので、良性疾患や良性所見も多く含まれます。中には撮影の条件や乳房の変形、あるいは読影しにくく評価不可などの理由で再検査になることもありますので、再検査になったからと言ってすぐに不安になる必要はありませんが、放置することは危険ですので、出来るだけ早く適切な医療施設での検査を勧めます。
もう一つ重要なことは、マンモグラフィ読影認定医とはあくまでも検診の判定を行うための資格であって、本来は乳腺が専門ではない医師のための資格であることです。つまり必ずしも乳癌の診断ができる医師とは限らないということで、本当に乳癌がどうかの診断は理想的には乳腺専門医が行うのがベストです。乳がん診断の専門は乳腺科あるいは乳腺外科ですが、その多くは外科医です。従って要精査となって2次検査を受けなければいけない方が受診すべき場所としては乳腺専門医がいる病院やクリニックを選ぶのが良いでしょう。病院に乳腺外来があるからといって必ずしも専門医が常勤しているとは限らないので、できればホームページで医師の経歴を確認してから行くとよいと思います。

エコー(超音波)による乳がん検診は必要か?

 エコーによる検診については いろいろな考えがあるようですが、検診ガイドラインではエコーだけの乳がん検診はまだ認められておらず、現状ではエコー単独の検診はお勧めしません。エコー検査だけの乳がん検診では不十分な場合があると考えられます。 エコーは腫瘤は発見しやすいのですが、微小な石灰化病変が発見しにくく、乳癌の診断にとって重要な所見を見落とす可能性があります。 ただ、授乳期前の若い人の乳腺や閉経前の40歳代の人はマンモグラフィで評価しにくい高濃度乳腺が多く、このような条件の方は場合によってはエコーが威力を発揮すると思われます。マンモグラフィにエコーを併用する場合に乳癌発見率の上乗せ効果があると考えられます。
また、ペースメーカー挿入者や豊胸術後の方(シリコンや生食バッグ、ヒアルロン酸注射、脂肪注入も含めて)などはマンモグラフィ検診が受けられないことが多く、エコー検査のみが適応になります。


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