僕の名前は山川春樹、都会の会社に勤める31歳のサラリーマンです。満員電車に乗り、朝早くから会社へ行き、夜遅くまで働く、そんな毎日。僕の日常は、常に時間や何かに追われ、気が休まるときもない。正直、毎日が息苦しいと感じている。最近では、厳しい仕事が祟ってか、体調を崩してしまい、少しノイローゼ気味でした。そんな僕を見かねてか、会社も休みをくれました。
そして、今、僕は、上司に倉渕村の評判を聞いて「癒し」を求めに倉渕村へやって来ています。
僕は、リゾートホテル「はまゆう山荘」に泊っていました。すると、従業員のスタッフに「山登り体験」のツアーがあることを聞かされ、「きっと元気が出ますよ」と、スタッフの人に心配そうに言われました。よほど僕が疲れているように見えたのでしょうね。とりあえず、他にやることもないので、山登りへ参加してみることにしました。
一応、参加はすると言ったものの、山登りは疲れそうだと憂鬱だった半面、「そういえば、山登りなんてガキのころ以来だなぁ」とちょっとウキウキしていました。
上の写真右側の方は、地元のリゾートホテル「はまゆう山荘」に勤務する塚越さんです。そして、横に写っているのは、今回のツアーで一緒になったOLの方や、老夫婦です。はまゆう山荘では、定期的に、宿泊客の要望に合わせる形で、さまざまなツアーを実施しています。今回は、裏山へ観光客を案内するというサービス。山に詳しいホテルのスタッフが一緒に同行し、山の素晴らしさを体験することができます。
山では、クマやイノシシに遭遇することもあり、非常に危険ですが、このように専門の人と同行することで、安全に登山することができたり、マナーなども学べたりできます。
例えば、山では、入山するときや見通しの悪い曲がり角では、必ず笛を吹いたり、大声を出したりして、山の動物たちへ注意を促します。こうすることで、動物たちの人に対するストレスを解消し、無駄な争いをなくす効果があります。このように山には山の礼儀やマナーがあります。
「へぇ、森の中にも礼儀があるんだぁ〜」と僕は驚きました。クマやイノシシがいるような野生の森林でも、人間社会のようにルールがあって、それを守らないといけない。妙に親近感を抱きながら、僕は、塚越さんの話に夢中で耳を傾けていました。
ホテルのスタッフから聞いた話では、この塚越さんは村の祭りやイベントにも積極的に参加する「頑張り屋さん」です。村のイベントには必ず顔を出す、いわば根っからの「倉渕の人」。倉渕で開かれるイベントへ行けば、必ず塚越さんに会えるそうです。(笑)
塚越さんに対する僕の印象としては、「笑顔を絶やさない、田舎の少年」という感じです。やはり、倉渕の大自然に囲まれて育ったせいか、子供ころの純粋で素直な部分をそのまま持って、大人になれたような人です。もう年齢は40歳を越えているはずなのに、今でも天候や季節が大丈夫なら、週に何度か山へ登っているそうです。体力も少年並みですね。
倉渕へ行くとこうした純粋であたたかい人が出迎えてくれます。
いざ山へ入ってみると、上の写真をご覧の通り、僕たちが連れて行かれた山道は、もはや人が容易に歩ける道ではありません。
道は枯れ木や小石でデコボコだわ、沢も歩くわで、最初は、「こんな道を何時間も歩けるかなぁ」と不安でしたが、そんな道であるにも関わらず、森の中へ行けば行くほど、自然と身体が軽くなっていくのが分かりました。厳しい山道でしたが、普段の満員電車のようなべっとりとした嫌な疲れはなく、だんだんと爽やかな気持ちなっていきました。「ぜぇぜぇ」と息を上げながらも、自然と顔から笑顔が出ているのに気がつきました。やはり、きれいな空気があるところでの運動は、人間の身体に何らかの効果を与えてくれるのですね。
上の写真は、ご覧の通り帰り道に発見した山菜です。その日、夕食で頂きました。倉渕村の山では、こうした山菜の宝庫です。
今回、塚越さんに連れて行かれたコースは三時間。残念ながら山頂まではいくことができませんでしたが、確かな充実感を得ることはできました。今度来たときは、必ず頂上まで登ってやると思っています。
「ピーピー」と駅員が笛を吹き、スーツを着た人たちが電車に乗り込む。僕もその中の一人で、汗をかきながら走る。決まった時間に出勤し、夜遅くに帰る、そんな慌しい生活が、今の僕を囲んでいます。
そういえば、「倉渕村では時計を気にすることもなかったぁ」と思い返します。あそこでは何もかもが自由で、時間を気にする必要なんかなくて、ただ自然に身を任せるだけだった。雄大な自然のなかに身を置くことで、また、そこに住む素朴であたたかい人たちに会うことで、本来の自分自身の純粋な部分を取り戻せた。
「あんな体験は、会社ではできないなぁ」と改めて感じます。また都会での生活に疲れたら、必ず倉渕村へ行こうと思っています。そして、「今回は夏に行ったから、冬の倉渕村にも行きたいなぁ」なんて考えながら、働いています。
忙しい時間を忘れに、そして、その中で見失った自分を取り戻しに、また倉渕村へ行きたい、そう考えています。