1 事案の論点・問題点
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2 事案の概要 (1)遺言の内容 (平成 6年 甲野花子 公正証書により遺言)
(2)相続財産 居住用の土地建物各1筆 評価合計10,000,000円 (3)相続関係 |
. | 遺言内容 | 障害 | ステップ1 | ステップ2 | ステップ3 | 参考先例等 |
1 | 不動産売却後代金遺贈 | 売買 |
相続登記 (法定相続人の関与) |
売買登記 |
売買代金 の分配 |
「遺言執行者は不動産を売却してその代金中より負債を支払い残額を受遺者に分配する」とある遺言状に基づき、遺言執行者が不動産を売却して買主名義に所有権移転の登記を申請する場合には、その前提として相続による所有権移転の登記を要する。昭45.10.5、民事甲第4,160号民事局長回答・先例集追X261頁、登研276号61頁〔解説277号74頁〕、月報26巻1号594頁 |
2 | 未登記建物を遺贈 | 建物未登記 | . |
相続保存登記 (被相続人の関与) |
遺贈登記 | 要旨 遺贈による所有権移転登記の前提として、台帳上の被相続人名義に所有権保存登記をすることが出来る。昭34.9.21民甲第2071号民事局長通達 |
3 | 一定面積の土地を遺贈 |
物件の特定 分筆登記未了 |
. | 分筆登記 | 遺贈登記 | 土地数筆の内一定面積を遺贈する旨の遺言があった場合、遺言執行者がする土地の分筆の申請及び受遺者のための所有権移転登記申請は受理できる。昭45.5.30、民事三発第435号民事局長回答・先例集追X242頁、登研272号62頁〔解説付〕、月報25巻8号252頁 |
4 | 農地を遺贈 | 農地法 | . | 農地法の許可 | 遺贈登記 |
権利を直ちに受遺者へ移転出来ない時(農地法の許可が必要な時)は、許可があってはじめて権利移転の効力が生ずる。 (最判昭30.9.9民集9.10.1228 最判昭30.9.13民集9.10.1262) 許可書の添付必要(昭52.12.27民三第6,278号民事局第三課長回答) 遺贈の原因日は許可の日(登記研究160号46頁) |
論点に関連する先例として、上記表1の先例、昭45年の民事局長回答があります。 「遺言執行者は不動産を売却してその代金中より負債を支払い残額を受遺者に分配する。」とある遺言状に基づき、遺言執行者が不動産を売却して買主名義に所有権移転の登記を申請する場合には、その前提として相続による所有権移転の登記を要する。 とするものです。 上記表2をご覧ください。 上記表3をご覧ください。 これらの3つの先例は、遺言執行の前提の処理をするのに、遺言執行者が、被相続人の 遺言執行者 として直接登記や農地法の手続をします。 表1は今回の事例ですが、遺言執行の障害となっているのは売買です。他の事例は、法定相続登記をしてから障害の解決をせよとしていないのに、この事例だけが、それを要求しています。一見同じような前提条件がある遺贈なのに登記手続にかなり開きがあります。 |
4自分の判断 この事例の先例の基礎にある考えを調べますと中間省略登記の禁止の様です。 この先例の要旨だけかいつまんで述べますと、 として、売却の日までは、相続財産の所有権は相続人に帰属していたと言わざるを得ない。としています。 いったん相続人に帰属して、その後売買がなされたと解釈するわけですから、直接売買登記をする事は、いわゆる中間省略登記になってしまう。だから、相続登記が必要である。となってしまいます。 これに対して、民事法事情133号で民事局付検事は次の様に批判しています。 こちらは遺贈を一つのものとして捕らえる立場で、この立場に立てば、法定相続登記は不要になるはずです。 実際に一端相続人に帰属するとしたら次の疑問があります。 2つめは売買契約の当事者です。 3つめは遺言執行者がその権限で法定相続登記が出来るのかという事です。 4つめは、清算型包括遺贈の先例が「債権的効力だから相続人に一端所有権が帰属したと考えざるを得ない」としている点です。 先ほどの4つの事例を比較しますと、今回の1の事例だけが包括遺贈で、それ以外は特定遺贈です。特定遺贈の場合は、物件的効力を持つのが通説判例のようです。すなわち受遺者は遺贈の効力が生じると同時に不動産を当然に取得すると考えられます。相続人に帰属する事は無い訳です。しかし特定遺贈と言っても、物件的効力が生じ無いものもあります。上記表3の、土地の一部の遺贈は、その先例の解説の中で、遺言者の死亡によって債権的効力しか生じないので目的物の特定が必要であるとしています。また農地の場合も遺言者の死亡によっては債権的効力しか生じないとしています。しかし、両者とも法定相続に所有権を帰属させる事無く、受遺者へ直接登記が出来るとしていて一貫性が無いように思えます。 しかし、中間省略登記が禁止されている理由は、実体の流れに登記手続きを反映させるという考え方からです。もし、実体という流れを解釈上で作り上げているのであれば、中間省略登記の問題ではなくなるはずです。私は一体として行われている遺言の執行過程に便宜形式的な時系列をうち立てているようにしか思われません。ですから、法定相続登記をすることなく、売買による所有権移転登記が出来るものと判断しました。(但し先例の変更はなされていない) |
5 一口コメント 今回の花子さんの様に、身よりの無い一人暮らしの方が、お世話になった方々の恩に報いたいと考えた時、唯一の財産である土地建物を処分して現金で分配するという内容の遺言は現実的な遺言ですし、今後この様な遺贈は増えるのではないかと思います。 |