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日本司法書士連合会が視察を行ったカナダ・アメリカ合衆国・ドイツで

は、すでに成年後見法(ここでの記述した内容は、右の「成年後見、

高齢者権利擁護」のコーナーを参照してお読みください)が施行され

運用されています。それぞれシステムは異なっていますが、3国に共

通して言えることは、成年後見制度の新しい理念である「ノーマライゼ

ーション」「自己決定権の尊重」を確保するためのシステムが有機的

に組まれている点、そしてそのシステムの多さをあげることができます。

特に、後見が必要とされる本人(以下 本人という)と裁判所を周辺で

支えるシステムで工夫がなされていました。これは、被後見人である

本人は考え方もそれぞれ異なっているため、新しい理念を実現するに

は、画一的な処理が不可能であり、個別に対応するためのシステム

が必要である事を物語っていると言えるでしょう。


 私は、各国の基本的な考え方を、後見人選任申立権者に見る事が出来

と思います。カナダ・オンタリオ州、アメリカ・コロラド州には申立権者に制限

がもうけられていません。ドイツでは申立権は本人だけですが、近親者等だ

れでも裁判所に後見人の必要性の通知をなす事が出来、これを受けて裁

判所が職権で選任手続にはいるので、実質的には、制限が無いと言える

でしょう。この場合本人の権利保護はどの様にしているのか気になるところ

ですが、実質的審査を行うシステムを持っています。


 申立権者の制限によって本人の保護をはかろうとする場合、経済面から

良いでしょうが、法定申立権者とされる人は本当に本人のための申立をな

すのか疑問があります。そこで諸外国の実質審査の方法とこれに伴う経費

削減の工夫について見てみたいと思います。


 カナダ オンタリオ州では代弁委員会及び代弁者がその役割を担うことに

なっています。代弁者は「財産管理能力を持たないと主張される者、財産

後見の対象者、身上ケア能力を持たないと主張される者に面会して、申立

の通知と添付書類の意味、及び申立に異議を唱える権利について説明す

る」(代行決定法76条)とされています。この代弁者が十分機能することに

よって、司法的な適正手続がなされなくても人権は保障されると思われま

す。この委員会の委員は州から任命され、1つの委員会は12名で構成さ

れ、その内8名は何らかのハンディーキャップを負った人が含まれていなけ

ればならない組織です。この組織は代弁行為のためだけに新たに設けられ

た組織であり、選任時における本人の保護の理想的なスタイルとも言えま

すが、それだけに、新たな出費を生み出す事になったようです。そのため、

この委員会制度は財政上の問題で施行後1年で廃止されました。個別に

対応する実質的なシステムの運用は難し事がわかります。

 アメリカのコロラド州では、カナダの代弁委員会に相当するものとして、コ

ートビジターがあります。役割は「権利や手続課程の説明、判断能力の疑

わしい人や後見人候補者等へのインタビュー」があげられますが、大きな

特色としてボランティアで運営されている点です。これは財政上の問題をク

リアする一つの方法でしょう。

 ドイツのバイエルン州では「世話官庁」をあげることができます。「世話官

庁」は、申立あるいは職権によって手続が開始した後、本人の実質調査を

行います。ここでの調査は社会的鑑定といわれており@世話の必要性、範

囲A家族が援助できないかB任意後見人がいないかC世話人候補者は

誰が良いか等が調査されます。近隣者等からの不正な通知によって裁判

所の職権により手続が開始したとしても、この段階で本人の人権を守る事

が出来る仕組みです。世話官庁は公的機関であり、カナダの代弁委員会

の様な機能に限定されたものでなく、従って人権確保のためだけに動く機

関ではありません。社会的能力の判定も行い、世話人協会、世話人への

指導監督など複合的な業務を行う事によって、人権を擁護する労力に対す

る財政面への影響が押さえられていると考えられます。

 どの様な人でも普通に扱うというノーマライゼーションの理念の現れでしょ

うが、ドイツでは、その選任手続においても、本人が手続に関与しないこと

は許されません。本人の行為能力を否定されることは無いわけですが、能

力が減退している人については、それを補わなければ手続はすすめられ

ず、そのため手続補佐人というシステムも設けられています。「手続補佐

人」は必要に応じて裁判所の職権で選任されることになりますが、選任さ

れると、世話人が選任されるまでの間、細かい手続的な事項について本人

に代わって行うことになります。このとき、手続補佐人は、本人の客観的な

利益を尊重して行動をする…というのが、判例の考え方である。

 アメリカでは似たようなシステムとして、ガーディアン・アド・リーテム、コート・

アポインティド・アトニーがあります。対審構造のため本人手続を代わりに行

うわけではありませんが、前者がドイツの手続補佐人と同様、客観的利益

を代弁しながら裁判手続に加わる事になり、後者は、本人の主観的利益を

代弁しながら裁判手続を行うことになります。 両国とも、この費用は原則

として本人が支払います。

 以上3カ国に共通して言える事は、本人を保護するために「本人」「後見

人」「裁判所」という基本構造以外にそれを脇で支えるシステムが充実してい

る点ででしょう。

 財政上の理由から、廃止されたカナダの代弁委員会というシテムもありま

すが、アメリカでは脇で支えるシステムとしてボランティア運動、ドイツでは「世

話官庁」を頂点として、「世話人協会」「世話人」というピラミッド構造を持つ

世話システムを組織し、有機的な運用がなされています。また手続面でも

アメリカのガーディアン・アド・リーテム、コート・アポインティド・アトニー、ドイ

ツの手続補佐人制度など数多くの人、組織が1人の被後見人のために裁

判所を支えて存在していました。

 我が国においても3カ国に見られる様な周辺で成年後見制度を支えるシ

ステムが必要ではないかと思います。本人から後見人選任の申立があっ

たときは良いにしても、それ以外の場合は、新しい理念からすれば、やはり

本人に直接面談してその意味、効果を説明して本人の真意を確認する必

要があると思います。また、本人が申立をおこなった場合はその代理人が

手続きを進めることが可能でしょうが、本人以外の者が申し立てた場合、そ

の後の手続きで本人は代理人を持つ事は出来ないと思われます。政府の

要綱試案の補佐類型の場合本人の同意を必要としていますが、これは開

始についての同意であり、この同意があったからといって、その後のすべて

の手続きに同意している訳ではなく、手続を進める中での本人が保護され

ない事も予想されます。

 現在我が国では、3ケ国にみられる裁判所の脇で支えるシステムは考慮

されていないようですが、必要な機関ではないでしょうか。日本の新しい成

年後見制度をさらに良いものにするために、本人のための代弁機能と選任

手続を進める上での代理機能を合わせてもって本人を支える「成年後見付

添人」というようなシステムをつくれないでしょうか。