はじめに

日本の福祉の枠組みは戦争直後の生活困窮者対策を前提としたもので、それが今までそのまま維持されてきました(平成10年12月に公表された「社会福祉基礎構造改革」の最終報告による)。しかし最近は社会も大きく変化し、急速な高齢化と共に介護が必要な高齢者が増加していています。この状況に対応するため、「ノーマライゼーション」「自己決定権の尊重」という新しい理念がとりいれられ、福祉の制度が大きく変わろうとしています。

従来の福祉の枠組みでは対処出来ない問題へ対応するため平成12年には介護保険法も施行され、近々、成年後見法も施行されると予想されます。また、成年後見法とは別に、厚生省から「社会福祉分野における日常生活支援」制度が出来ようとしています。

このコーナーでは、これからの日本の福祉の基本的な制度となると思われる、「成年後見制度」「社会福祉分野における日常生活支援」「介護保険法」がどのようなものであるかみてみたいと思います。

成年後見制度って何

今、我が国は急速に高齢化しています。それによって、様々な支援を必要とする人が増えています。この事に社会制度として対応しようとしています。福祉の分野では、平成12年から始まる介護保険があります。法律分野では権利擁護システムとして成年後見制度があります。これは、痴呆性の高齢者や障害者の方々が自立して生活できるように、財産管理や身上監護をとおして支援していく制度です。そのために、民法という法律で規定されている禁治産・準禁治産制度を改正して出来る新しい理念に基づく制度を、成年後見制度といいます。

成年後見制度が改正されるとどうなるのでしょう(1999.2.10

平成12年の介護保健法が施行されます。介護が契約によってなされる時代になります。介護を受ける契約が難しい場合、成年後見制度を利用して正しい介護が受けられるようになります。一人暮らしの高齢者など、何か契約を結ぶ場合困った時に利用できます。能力が衰える前に信頼の出来る誰かに、自分が能力を衰えた後、医療はどうしたい、生活はどうしたい…とあらかじめたのんでおけます。 

成年後見制度導入の背景

それでは、禁治産、準禁治産制度という制度があるのに、なぜ成年後見制度が導入されるのでしょうか。 

背景1 西暦2000年に同時に施行される介護保健とのからみをあげることが出来ます。これによっていままで措置として行われていた介護が契約によってなされる事になります。社会全体が契約社会へ進みます。

 

背景2 高齢化社会への対応という背景を持っています。日本社会は急速に高齢化が進んでいます。寝たきりの方とか痴呆の方が増える一方で、家庭の介護力が低下している事です。従来介護が必要になった人たちを、家庭・とりわけ女性が支えてきました。しかし女性の社会進出に伴って、今後はあまり期待できない状況にあります。

 

現在、この寝たきりとか痴呆の人を支える制度としてあるのが、禁治産宣告制度、準禁治産宣告制度です。この制度は、全く使い勝手の悪い制度であると指摘がります。使い勝手の悪い制度だとしても、今までの様に、対象となる人が少ない時代、家庭に介護力がある時代には、この制度を利用しなくても、家庭が守ってくれました。しかし、一方で介護を必要とする時も契約による事になり、一方で家庭の介護力に期待出来ないので、本当に利用出来る、後見法をつくらなければいけない状況になってきています。

 

 

成年後見制度の新しい理念

法改正によって、高齢社会に対する「新しい理念」が導入ます。この新しい理念にはどのようなものがあるのでしょうか。「ノーマライゼーション」と「自己決定権の尊重」という2つの考え方が新しい理念とされています。この考え方は今後の社会システムの基幹をなす重要な考え方です。

@ノーマライゼーョン

「障害のあるひとも家庭や地域で通常の生活をすることが出来るような社会をつくるという理念」(政府の要綱試案より)誰もが普通の生活が出来る社会をつくろうということです。いかに手厚く保護や特別待遇したとしても、それが、隔離や排除の思想の上で行われていたのでは、本当にその人格が尊重されていることにはならないのです。対象者をまとめて処遇することは結局、隔離や排除につながります。ですから、社会的弱者を隔離するのでなく、普通の生活がおくれるように、援助をしていこう。生活支援に対する考え方です。成年後見法に限らず、すべての社会福祉の基本的な考え方となっています。

A自己決定権の尊重

もう一つの新しい理念が自己決定権の尊重です。自立した大人の社会は、それぞれの人が、自分のことは自分で決めます。それは普通のことです。障害者だからといって、高齢者だからといって例外はありません。ただし、ハンデーキャップがあるわけですから、それは補わなければなりません。力のある人がその部分を補って、支援して、その人の残存能力を出来るだけ生かして、本人の自己決定権を尊重するわけです。そしてハンデーキャップを負った人も社会の一員になるのです。これまでの禁治産制度は、この自己決定権、に限らずその人の権利を奪う事によって本人保護を考えてきました。権利を奪って社会という蚊帳の外に置いて、いわば隔離したわけです。これは、先ほどのふれた、ノーマライゼーションのいう肉体的な隔離と同じ意味で、権利の隔離といえるでしょう。

民法の改正内容

「成年後見制度の改正に関する要項試案」では改正の目的として次の点をあげています。「高齢社会への対応および障害者福祉の充実」を計るため「新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和」を旨として「柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度にすること」

特に気になる4つの点に絞ってお話します。

@任意後見制度の導入

A補助類型の創設

B身上配慮義務の導入

C制度の充実

@任意後見制度の導入 

1、任意後見制度の導入 についてふれます。「任意後見制度」って何でしょう。 保護が必要になる前に、事前的な予防措置として自分の意思を表明しておいて、これに基づいてなされる後見が「任意後見」とされています。現行法の「禁治産制度」の様に、保護が必要になった後に発動されるのが「法定後見」として使い分けています。先程の自己決定権の尊重の考え方がよくかなう制度として「任意後見」の重要性が指摘されています。

「法定後見の開始決定を受けてないものが、自己に関する法律行為の全部または一部について、家庭裁判所による任意後見監督人の選任を停止条件として、代理権を付与する委任契約」(要項試案検討事項)

本人は、自分の意思に基づいて、能力が衰えた後に自分の代わりにやってくれる代理人を見つけ、契約を結びます。これは公正証書によらなければならない要式行為とされています。公正証書とした理由として、要項試案は、公証人が関与する事により契約の成立、真正を制度的に担保出来る等の点をあています。

任意後見監督人は家庭裁判所から選任され、任意後見人の職務を監督します。そして家庭裁判所に不正行為などの報告を行います。これを受けて、家庭裁判所が任意後見人を解任出来るしくみとなります。間接的に公が監督するシステムといえます。 (戻る)

A補助類型の創設 

次に補助類型の創設に触れます。

要項試案は、いままでの禁治産者、準禁治産者の2類型のほかに新たに補助類型を加えて3類型としました。補助類型は、今までの準禁治産者よりも、軽度の痴呆や知的障害が対象です。「軽度の痴呆・知的障害・精神障害等により代理権又は同意権・取消権による保護を必要とする者」とあります。次の保佐類型は今の準禁治産である「心身耗弱者」に相当するものが対象ですし、後見類型は従来の禁治産である「心身喪失の常況にある者」に相当するものが対象です。(戻る)

B身上配慮義務 

次に「財産管理」と「身上監護」という言葉があります。簡単に言ってしまえば、お金の管理と身の周りの世話や生活の管理です。しかし、新しい理念は、高齢者自体を保護しようするものですから、身の回りの世話という事が言われ出したわけです。財産管理は何のために行われるのか考えれば、その人の生活、人生をサポートするためでしょう。銀行預金を管理するのは、それを生活費として上手に使うためでしょう。新しい理念に基づいたとき、財産管理はその人の生活のためにあるので、「財産管理」と「身上監護」を切り離して考える訳にはいかないのです。この「身上監護」について配慮する義務が加わりました。(戻る)

C制度の充実、整備(「成年後見制度の改正に関する要項試案」検討事項を含む)

複数後見制度、法人後見制度の導入   ことばの使い方 準禁治産、禁治産という言い方を廃止し保佐類型、後見類型   戸籍への記載の廃止  各種資格制限を縮減   配偶者法定後見人の廃止

介護保険法について

 

公的介護保険という方式を導入することは、これまで高齢者の介護を家族が担っていたものを、家族から解放し、社会という家族外で担う、いわゆる「介護の外部化」を促進させるものです。

 

介護保険は、高齢者が、年を重ねることにより入浴や排泄などに介護を要する状態になった場合に、自らの有する能力に応じて自立した日常生活を送ることができるように必要な保健医療サービス、福祉サービスの給付を行うものです。

*この保険は、40歳以上の国民全員が加入します。*財源は一割を利用者が負担し、残りの半分は公費、税金で、半分は保険料でまかないます。*一人あたりの保険料はスタート時点では月額2500円が基準とされています。*終身払いで、要介護状態になっても払い続けなければなりません。*保険料は3年に1度ずつ改訂があり、2010年時点で3500円程度と試算されています。*これは一種の「掛け捨て保険」ですので、いくら保険料を支払っていても、要介護状態にならないと保険による給付・サービスを受けることができません。

介護保険制度でこれまでの介護サービスの仕組みと大きく変わる点*介護を要する状態にランクを付けることになります。そのために「介護認定審査会」という機関が新たに作られます。*高齢者に提供する介護サービスを組み合わせる必要が生じますので、そのため、介護支援専門員(ケアマネージャー)という新しい職業が生まれます。*サービスの提供機関に民間活力が大幅に導入されることになります。

詳細(厚生省)