ピアノは、基本的にはブラインドタッチ(鍵盤を目で探さない)で弾きます。そうすることにより楽譜を見る間ができます。暗譜(楽譜を全部覚えてしまい、楽譜を見ないで弾くこと)は、とても素敵なことですが、鍵盤ばかり見ているため、楽譜を見る間がないので、「暗譜するしかない」という奏法は、辛いものがあります。
ブラインドタッチは年数がたったら徐々に獲得できるものではありません。逆に年数が経つにつれて鍵盤ばかりみて弾く癖がついてしまいます。はじめの一歩から良い方法論のもと、正しく楽に学べばなんでもなく、それは「空気を吸うような」ものなのです。もちろん誰でも自然に身につけられます。
ブラインドタッチを質問形式で説明していきます。
Q.どのような練習方法でブラインドタッチは出来るようになるのですか?
A.無理をしないで、5本の指をドレミファソの鍵盤においたままで弾ける曲から練習します。Q.練習は難しいですか?
A.かえって簡単です。簡単な曲を楽譜を目で追いながら弾くだけです。子どもの練習方法と同じです。よく言われている「好きな曲を一曲マスターしよう」のほうが、泳げないのに海に飛び込むようで、無理があり難しく進歩も遅くなります。Q.どのようなテキストを使いますか?
A.5本の指を右手も左手も鍵盤に置いたままで弾ける曲を集めたテキストです。 おとなが好む曲で作られています。Q.鍵盤をずっと見て弾くと何か困ることがあるのですか?
A.鍵盤を見続けるということは、言い換えれば、楽譜を見る間が全くないということです。つまり曲を全部暗譜することになり、1カ所でも忘れたら弾けなくなります。Q.鍵盤は全く見ないのですか?
A.そんなことはありません。車を運転するとき、ちらちらバックミラーも見ていますね。あの感覚です。、鍵盤は必要に応じて見ているのですが、楽譜のどこを弾いているかからも迷子にならないようにすることです。音が飛ぶところはピアニストでもきちんと目で鍵盤を確かめて弾きます。Q.ブラインドタッチでの演奏の良い点は、楽譜を見ながら弾けるということだけですか?
A.そのほかにも良い点はたくさんあります。音楽的演奏の根本に関わることも多くあります。例えば、鍵盤をいちいち見ないで、手の感覚で弾くようになると、鍵盤からピョンピョンと指を離したくなくなり、なめらかな演奏になります。しかし一番大きなことは、ピアノ演奏で最も大切な、「耳を使うようになる」ということなのです。今、自分が出した音が合っているのかを今までは目で指をみて確認していた人が、ブラインドタッチに切り替えると、耳で確認出来るようになります。Q.おとなから始めたのだから子どものように弾けなくても仕方がないと思いますか?
A.速く指を動かすことなどは、子どもからしたほうが伸び率は高いと思います。しかし、音楽性などは子どもと同等か同等以上です。また、ブラインドタッチについてはおとなも子どもも関係ありません。出来る出来ないではなく、それがピアノの弾き方です。Q.鍵盤を見てばかりいる方法で何年も弾いていたため、鍵盤を見ないと弾けません。いまからブラインドタッチができますか?
A.そのような方も多く指導してきましたので大丈夫とはいえますが、ゼロからの方より大変です。まずは、身につけたいという意思をしっかり持つこと、そしてとにかく、初心にかえって、一からこの方法論で再スタートすることです。そうすれば今まで学んだことは決して無駄にはならず、ブラインドタッチを身につけた後、それらのことも全部生きてきますので心配はいりません。Q.ブラインドタッチはどこの教室でも適切に指導してくれるのですか?
A.残念ながら、「おとなも指導します」と言っている教室の多くが、ブラインドタッチの指導を見過ごしています。理由は、ピアノ教師自身のほとんどが、子どものころに習い始めたため、「自然に身につくはず」と勘違いしてしまっているからです。教材も音が飛ぶタイプのものを使ってしまい、ブラインドタッチの獲得から遠のいてしまうことも多いです。〜おとなのピアノの指導者として、ブラインドタッチ指導を心がけます〜
NHK教育テレビ趣味悠々ピアノ講座のテキストを執筆することになった2002年、 執筆のために、もう一度根本からおとなの指導法を考えてみようと思い、おとなの生徒の方々に「何か困っていることはありますか?」と尋ねました。その時の答えが思いがけないものでした。「楽譜を丸暗記しないとピアノが弾けない」「えっどうして?」「だって鍵盤を押すときに、目でどれがドかレか確認しなければならないから」ここで私は絶句。
そこであわてて、当時おとなのピアノの日本でも草分けと言われているような先生方の著書にその解決方法が無いかと探し回りました。「おとなの方はよく、鍵盤を見ないと弾けないとおっしゃいます。解決方法としては、だんだんに楽譜を見るように変えていけばよいでしょう」などの記述ばかり。すっきりした回答が見つからないため、自ら「鍵盤位置感覚研究会」というお堅い名前の研究会を立ち上げ、多くの初心者に実験台(?)になっていただき、多くの時間をかけ、共に解決方法を探っていきました。
結論は「だんだん見ないようにする」のではなく、「簡単な曲をまったく鍵盤を見ない」という方向から入るのが最も簡単で合理的ということでした。まさに子どもと同じ方法です!
なぜ、子どもには取り立ててブラインドタッチを意識させなくても多くの子は自然にうまくいくのに、おとなは意識を向ける必要があるのでしょうか。これは、いくつか理由があります。
- 「あなたの好きな曲を一曲マスター」といううたい文句の教室が多くありますが、(私自身2002年以前はそうだったのです!)、好きな曲というのはたいていがドレミファソの範囲ではまかないきれず、音程が広範囲にわたります。慣れていない人がそれを弾くのには目で鍵盤を確認するしか方法がありません。小さな子にいきなりそのようなことをさせる教室はまずありません。
- おとなは子どもより「石橋をたたいて渡る」ように長年の人生経験からなってきています。「ここはド」、と鍵盤の位置を感覚的に95%信じてもさらに安心を得るため目で確認したくなります。
以上のようなことから、初期に難なくつくはずの鍵盤感覚ですのに、付ける時期を逸してしまうのです。もったいないことです。
NHKのテキストで、研究の成果を7ページにわたって発表し、その後、音楽の友社のブラインドタッチテキスト2巻にさらなる研究成果をまとめました。
私の願いは、「一曲主義」ではない、このごく普通の正しい学びかたが日本中のピアノを楽しみたいおとなの方々に浸透することです。この問題に気がつき、急いで2002年に研究を始めてから、多くのおとなを教え続けてあっという間に8年が経ちました。そのあいだも、試行錯誤を続け、現場で数多くのノウハウを得てきました。8年前より今はもっと指導方法への理解が進みました。
今、ヴィエナのおとなのピアノ教室ではみな、ごく普通に、子どもと同じようにブラインドタッチを獲得しています。
