山日記(2) |
「到着しましたよ」の声で、バスの中の全員が目を覚まし窓から外を覗く。今回の山行は遠く岩手県にある早池峰山(はやちねさん、一九一七m)である。ここは、高山植物の宝庫として国定公園に指定されている。
昨夜、高崎を出発してから約九時間で登山口に到着し、起床の合図と成ったわけであるが、窓の外は前日の天気予報通り「大雨」である。これではとても登れない、残念ながら翌日再度挑戦となった。 翌朝三時起床、窓の外は暗いが雨ではなさそうである。支度を済ませ、全員がバスに乗り込み宿泊場所から「河原の坊登山口」へ移動した。登山開始は六時半丁度。歩き始めると、左右の大きな木々に遮られ風はそれ程気にならない感じであった。しかし、霧は相変わらず沢山発生し振り返っても景色は見られない。三十分くらいは、クヌギ、水楢、楓、白い葉の目立つマタタビの木が続き、山間の渓流に沿って登り続けた。何回かの休憩を挟み、知らぬ間に森林限界を過ぎたのか廻りの景色が変わってきていた。這え松が増え、岩肌が露出し、風がまともに当たり始めた。 岩の間を縫うように登って行くと、所々に高山植物が見えてきた。目立つのは、綺麗な紫色の「小田まき」「四つ葉シオガマ」である。小さな黄色い花を沢山付けている「黄花のこばのつめ」が目を楽しませてくれ、有名な「早池峰ウスユキソウ」も段々と数が増してきた。
三十分ほどの休憩の間に、昼食をとり、帰路に就く。目指すは「小田越」である。下り始めると、辺り一面に高山植物が有ることに気付く。強風の中でじっと耐え、真っ白な花を揺らせている「チングルマ」の群生、ピンクの花びらを揺すっている「岩カガミ」、そして「ベンケイ草」「トラの尾」「南部犬ナズナ」などが、廻りの厳しい気候の中で素晴らしい色遣いを見せてくれている。「登ってよかったぁー」思わずつぶやいてしまった。 下りのルートは、思った以上に急坂で風も強く、飛ばされないように歩くのは、大変である。急さかを下り終え、登山口に着いたのは十二時半、結局往復五時間の山行であった。強風と霧のため逃した想い出も沢山あったと思うが、充分に満足を与えてくれた早池峰山であった。
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平成11年1月1日、迎えの車に乗り込んだ我々が真っ暗な中登山口へ着いたのは、5時丁度。山頂から初日の出を見ようと計画し、仲間6人が集まったのである。
寒い、なんと言っても早朝と言うこともあり一番冷える時間帯である。寒さに負けないようしっかりと支度をして「浅間隠し山」の登山口を出発したのは、5時を15分過ぎていた。日の出の時刻は、6時50分頃とのことなので、余裕で登頂できるだろうと出発した。 「あ、忘れた」私だけ、夜中に動き回るための灯りを忘れてしまった。仕方なく、列の間に入れて貰い他人の灯りを頼りに登山を始めた。多少の月明かりもあったが、歩くにはとても暗すぎる。注意しながら、一歩一歩進んで行くが、以前登ったことのある山なので何とか様子が分かるだけでもありがたかった。 スタートしてから1時間ちょっと歩くと、着込んだ服の中で汗が出始め、息が白く散って行く。しかし、外気は冷たく息をする鼻が痛い。片方の手で、鼻を覆い隠して寒さをしのいだ。
周りが明るくなると、色々なものが見えてくる。今日は風は強いが晴である。眼下に利根川か烏川かの流れが雄大な中にくねくねと走り、その上の方が少し赤くなってくると太陽が顔を出してきました。最初、大きな赤い丸が少しずつ上昇しあっという間に半分以上が顔を出しました。
下山には、懐中電灯は要りません。強い風で木々の枝が揺れ、まるで地鳴の様にゴオーッと響きます。足下の熊笹の表面には真っ白な霜がこびりついています。しかし、春が来ることを確信しているように、ツツジの枝の先には堅い蕾がしっかりと寒さに耐えています。登っていたときには見えなかった景色が明るくなった視界に飛び込んできます。真冬の景色は、凛として厳かです。思わず姿勢を正したくなります。7時45分、登山口に戻り支度を整え、帰路に着きました。
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本当に久しぶりである。今年は何かと休日に用事が重なり山歩きは半年あまりお休みしていた。「たまには登ろうよ」という声に誘われ、梅雨の合間の祭日に計画した。目的地は新潟県と長野県の県境にある「苗場山(2,145m)」である。
朝起き出すと、外は小雨である。やはり梅雨なので無理かなと感じつつも、支度を済ませ友人を迎えるために車に乗り込んだ。約束通りの時刻に友人と一緒に集合、同行するメンバーも次々に到着し、予定より早く出発した。 関越自動車道を「湯沢」で降り、山を越えて「津南」方面へ向かう。トンネルを抜けると曇り空ではあるが雨は降っていない。途中で朝食と昼食を仕入れ登山口へと進んだ。幾つかある登山口の中でも、一番短時間で往復できるルートの駐車場へ到着した。 登山道は前日までに降り続いた雨のお陰で、道は相当なぬかるみである。靴を履き替え、登山口を出発したのは8時15分。最初は大木の間を縫って歩いていたが、道の状態は最悪である。泥だらけの田圃の中を歩いているようで、足元に注意しないと滑って転びそうな感じである。登山口が三合目だったので、四合目、五合目と進むにつれて口数が少なくなり先頭と最後尾の間が長くなってきた。道には直径30センチ以上の丸太を輪切りにしたものが伏せてあり、その上を歩けるようになっていた。六合目を過ぎると、根曲がり竹が道の両側を覆いだして来たが、最近と言うより今朝であろう、綺麗に刈り取ってあった。 八合目を過ぎると、滝のように流れる汗と更に険しくなる岩場で「よいしょっ」と声を掛けながら登らねばならない。途中で何組かのパーティとすれ違った。彼らは、山頂で一泊し帰路に就いている所である。鎖場を何カ所か通り過ぎ、もうすぐ九合目と言う地点になると上の方がすっきりと見えだした。丁度森林限界に差し掛かっているのだろうか、樹木も背が低くなり笹が多くなってきた。 目の前にある岩を登ると、一気に視界が開け九合目に到着である。不思議なことに、そこは広い湿原になっており、見渡す限り高原植物が生えている。丁度今が盛りであろう「ワタスゲ」が真っ白な花を見せている。広い湿原は木道がしかれて、その左右には盛りを過ぎた「イワカガミ」「紅ドウダン」、よく見ないと見逃してしまいそうな「ヒメシャクナゲ」、言われなければ気付かない「モウセンゴケ」「御前タチバナ」などが目を楽しませてくれた。 山頂は、湿原を楽しみながら木道を進み20分ほどで到着した。丁度正午である。早速準備したワインと昼食を戴き、しばしの歓談の後帰路に就いた。下りは殆ど休憩をとらず一直線に岩場を降りてきた。ぬかるみは相変わらず続いていたため、滑りやすくなっており私も濡れた丸太の上に足をついたときに見事にひっくり返ってしまった。お陰で白いズボンが泥だらけである。 登山口に辿り着いたのは15時40分、2時間半で下山したことになる。全員が泥だらけになり、登山口で泥を洗い落としさっぱりした後、待望の温泉探しである。以前来たことのある露天風呂を探し出し、雄大な景色を眺めながらしばし恍惚の時間を過ごした。 久しぶりに登った山に感激し、未だ体力的にも何とかなることを実感し、足腰の痛みが明後日出るであろう事を予想しながら満足感に浸っていた。足腰の痛みは予想通り2日後に出て約一週間の間、山に登ったことを思い出させてくれた。 |
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