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第二  任意後見契約に関する法律案(仮称)


   公的機関の監督を伴う任意代理制度として、次のとおりの任意後見制度を創設するものとする。


一  趣旨

この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。

二  定義

この法律において、次の1から4までの各項に掲げる用語の意義は、当該各項の定めるところによるものとする。

1  任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、四1により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいうものとする。

2  本人 任意後見契約の委任者をいうものとする。

3  任意後見受任者 四1により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいうものとする。

4  任意後見人 四1により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいうものとする。

三  任意後見契約の方式

任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならないものとする。

四  任意後見監督人の選任

1  任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任するものとする。ただし、次に掲げる場合は、この限りでないものとする。
(一)  本人が未成年者であるとき。
(二)  本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
(三)  任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
  (1)  民法第八百四十六条各号(第五号を除く。)に掲げる者
  (2)  本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
  (3)  不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

2  1により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見、保佐又は補助の開始の審判を取り消さなければならないものとする。

3  1により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、本人の同意がなければならないものとする。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでないものとする。

4  任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任するものとする。

5  任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができるものとする。

五  本人の意思の尊重等

任意後見人は、二1に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないものとする。

六  任意後見監督人の職務等

1  任意後見監督人の職務は、次のとおりとするものとする。
(一)  任意後見人の事務を監督すること。
(二)  任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。
(三)  急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
(四)  任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。

2  任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができるものとする。

3  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、又は任意後見監督人の職務についてその他の必要な処分を命ずることができるものとする。

4  民法第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十四条から第八百四十六条まで、第八百五十条及び第八百六十二条の規定並びに第一、二1の(二)(3)エ及び(四)(2)及び(4)は、任意後見監督人について準用するものとする。


七  任意後見人の解任

任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができるものとする。

八  任意後見契約の解除

1  四1により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができるものとする。
2  四1により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができるものとする。

九  後見、保佐及び補助との関係

1  任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見、保佐又は補助の開始の審判をすることができるものとする。

2  1の場合における後見、保佐又は補助の開始の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができるものとする。

3  四1により任意後見監督人が選任された後において本人が後見、保佐又は補助の開始の審判を受けたときは、任意後見契約は終了するものとする。


十  任意後見人の代理権の消滅の対抗要件

任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができないものとする。


十一  家事審判法の適用

家事審判法の適用に関しては、四1、4及び5による任意後見監督人の選任、四2による後見、保佐又は補助の開始の審判の取消し、六3による任意後見監督人の職務に関する処分、六4において準用する民法第八百四十四条、第八百四十五条及び第八百六十二条の規定並びに第一、二1(四)(2)のア及びイによる任意後見監督人の辞任についての許可、任意後見監督人の解任、任意後見監督人が数人ある場合におけるその権限行使についての定め及びその取消し並びに任意後見監督人に対する報酬の付与、七による任意後見人の解任並びに八2による任意後見契約の解除についての許可は、家事審判法第九条第一項甲類に掲げる事項とみなすものとする。


十二  最高裁判所規則

この法律に定めるもののほか、任意後見契約に関する審判の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定めるものとする。

第三  後見登記等に関する法律案(仮称)


民法の禁治産及び準禁治産の制度を後見、保佐及び補助(以下「後見等」という。)の制度に改め、新たに任意後見制度を創設することに伴い、禁治産及び準禁治産の宣告を戸籍に記載する現行の公示方法に代え、次のとおりの新たな登記制度を創設するものとする。

一  登記所

後見等及び任意後見契約についての登記に関する事務は、法務大臣の指定する法務局若しくは地方法務局又はその支局若しくは出張所が、登記所としてつかさどるものとする。


二  登記官

登記所における事務は、指定法務局等に勤務する法務事務官で、法務局又は地方法務局の長が指定した者が、登記官として取り扱うものとする。

三  後見等の登記、任意後見契約の登記等

1  後見等の登記は、裁判所書記官の嘱託又は後見登記等ファイルの記録(以下「登記記録」という。)に記録されている者等の申請により、後見等の種別、開始の審判をした裁判所、開始の審判の確定年月日、成年被後見人、被保佐人及び被補助人(以下「成年被後見人等」という。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍、成年後見人、保佐人及び補助人(以下「成年後見人等」という。)の氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)、保佐人又は補助人の同意を要する行為又は代理権の範囲、成年後見人等が数人ある場合におけるその権限行使についての定め、成年後見監督人、保佐監督人及び補助監督人(以下「成年後見監督人等」という。)の氏名及び住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)等の所要の事項を磁気ディスクをもって調製する後見登記等ファイルに記録することによって行うものとする。

2  任意後見契約の登記は、公証人若しくは裁判所書記官の嘱託又は登記記録に記録されている者等の申請により、任意後見契約に係る公正証書の作成年月日、本人の氏名、出生の年月日、住所及び本籍、任意後見受任者又は任意後見人の氏名、住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)及び代理権の範囲、任意後見監督人の氏名、住所(法人にあっては、名称又は商号及び主たる事務所又は本店)及び選任の審判の確定年月日等の所要の事項を後見登記等ファイルに記録することによって行うものとする。

3  登記記録は、法令に別段の定めがある場合を除くほか、後見等の開始の審判又は任意後見契約ごとに編成するものとする。

4  登記官は、後見等又は任意後見契約について、終了の登記をしたときは、当該登記に係る登記記録を閉鎖し、これを磁気ディスクをもって調製する閉鎖登記ファイルに記録しなければならないものとする。


四  登記事項証明書等

1  成年被後見人等又はその配偶者、四親等内の親族、成年後見人等、成年後見監督人等、未成年後見人若しくは未成年後見監督人は、登記官に対し、当該成年被後見人等に係る後見等について、後見登記等ファイルに記録されている事項を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができるものとする。退任した成年後見人等若しくは成年後見監督人等又は成年被後見人等について任意後見契約が登記されている場合における任意後見受任者も、同様とするものとする。

2  任意後見契約に係る本人又はその配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、成年後見人等、成年後見監督人等、未成年後見人若しくは未成年後見監督人は、登記官に対し、当該任意後見契約について、登記事項証明書の交付を請求することができるものとする。退任した任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人も、同様とするものとする。

3  成年被後見人等であった者又はその成年後見人等若しくは成年後見監督人等であった者若しくは相続人その他の承継人は、登記官に対し、当該成年被後見人等であった者に係る後見等について、閉鎖登記ファイルに記録されている事項を証明した書面(以下「閉鎖登記事項証明書」という。)の交付を請求することができるものとする。

4  任意後見契約に係る本人であった者又はその任意後見受任者、任意後見人若しくは任意後見監督人であった者若しくは相続人その他の承継人は、登記官に対し、当該任意後見契約について、閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができるものとする。

5  国又は地方公共団体の職員は、職務上必要とする場合には、登記官に対し、登記事項証明書又は閉鎖登記事項証明書の交付を請求することができるものとする。


五  手数料

登記の原因となった審判の申立人又は任意後見契約の公正証書の嘱託人、登記の申請をする者及び登記事項証明書又は閉鎖登記事項証明書の交付を請求する者は、政令で定める額の手数料を納めなければならないものとする。

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