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1998年4月8日午後1時コロラドスプリングス検認裁判所で後見人選任申立事件に対しての審議がおこなわれていた。

ハーケンズ氏
「後見人が必要だとされているメーベル・マーク夫人は裁判所に来たくないと言っていて今日は欠席しています。彼女は、自分で出来るからこの様な申立は要らないと言っていますが、私の見る限り、最近状態が悪化し、誰かの世話が必要であると思います・・・」
と述べ、今彼女の身の回りの世話をしている証人のL社に対して証言を求めた。
L社
「最近では会った人すら覚えていない状態です。」
ハーケンズ氏
「今お聞きのような状態ですから後見人が必要と思います・・・」
として後見人としてL社が世話を行った方が良い旨を主張した。
グリスリー判事
「彼女が要らないと言ったとしても、必要かどうか決める必要があります。彼女の真意を聞くために代弁をする者をつけて、法廷で聞く必要があると思います。・・・」
としてクリフ・クルーズ氏を代弁人に選任し、次回の開催日までに、医師の報告書、身上ケアの計画書を提出するように告げて終了した。

日司連による第2回成年後見に関する海外視察調査が去る4月4日より12日にかけて行われたが、これは視察団がアメリカのコロラド州の法廷を視察した時に行われた審議の一部である。

コロラド州は成年後見の最前線の国とされているが、この検認裁判所で我々を驚かせたのは、マーク夫人の後見人選任に関与する人の多さである。通常申立がなされると、裁判所はCourt Investigatorという調査機関を派遣し、その報告に基づいてGuardian Ad Litem、Court AppointedAttorneyを必要に応じて選任し、審議の上後見人が必要か否か決定する事になる。

Court Investigatorはこの法廷には登場していないが、法廷の目となり耳となる役目を担っている機関である。コロラド州では所定の訓練を受けたボランティアが担当している。高齢化を自らの問題としてとらえ、積極的にボランティアを申し出る人が多く、現在担当人数が不足することはないとのことであった。この事件では申立の段階でマーク夫人や、申立人(この事件は娘によって申し立てられた)、彼女ののホームドクター等まわりの人たちと面接した結果、裁判所にマーク夫人は特に後見を望んでいない旨の報告があったものと思われる。そのため、本当に後見をつける必要があるか否か彼女にとって一番良い事を判断する必要から、Guardian Ad Litemが選任された。それがハーケンズ氏である。この人はマーク夫人のためになること(必ずしも望むことではない)を調査し決定し、この法廷で証人(L社)審問などしながら彼女に後見人が必要な事を立証しようとしていた。法廷の最後で選任されたクリフ・クルーズ氏がCourt Appointed Attorneyと呼ばれる人で、マーク夫人の望むことを調査し主張することになる。彼女が法廷に出廷しない点、彼女の意思に反しても後見人が選任されるかもしれない点を考慮して彼女の真意、希望を主張させるために選任されたものと思われる。次の法廷では、この両者の主張と調査機関からの報告を総合的に判断して決定が出されるものと思われる。

成年後見は財産管理つまり法律行為としての面と、身上ケアつまり事実行為としての側面を持つ。法律行為的な思考のほかに事実行為への思考が必要になったところにこの問題の難しさがあり新しさがある。視察地では後見の申立が多いが、多くは、身の回りの世話をする後見人を求めるためのものであり、一般的には家族やソーシャルワーカーが後見人となっているようである。

我々が扱えるのは財産管理あるいは法律的なサポートである。それらは地味であり重要なものであるが、多くは縁の下でこの問題を支える事になるのかもしれない。法律を扱う職業上、法律的なサポートが気になるところであるが、高齢者の身上ケアにスポットライトを当てて、もう一度見つめ直してみる必要があると思う。成年後見最前線のもう一つの国、カナダのオンタリオ州では、それまでの民法ではなく新たに代行決定法を制定し、身上ケアという事実行為も含めて規定していた。ここコロラド州は医師の判定のみによるのでは無く、本人の生活能力を調査するシステム等を活用して、本人にとって最も望ましい状態を求めようとしている。最前線を走る国々は、高齢者の生活を支援する視点から新しい法律、新しいシステムを作り上げていた。

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月報司法書士掲載